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Oryx Stainless |
米国の保護主義強化と欧州の低迷
オランダのOryx Stainless社の商業ディレクターであり、BIRステンレス鋼・特殊合金委員会の委員長を務めるヨースト・ファン・クレーフ氏は、米国が3月12日から鉄鋼・アルミニウムに25%の関税を課す計画について、「グローバルな保護主義の新たな章を開くもの」と指摘。
「米国内に生産拠点を持ち、半製品を輸入して加工するグローバルなバリューチェーンを持つステンレスメーカーに打撃を与える」と述べた。
欧州では、アジアの供給過剰とEUの低需要が相まって、主要ステンレスメーカーの利益率が制約されている。ただし、年初から受注量は若干増加しており、ドイツの選挙が不透明な政府方針を解消する契機となる可能性があるとした。
また、ニッケル銑鉄(NPI)の継続的な輸入が、ステンレス業界の循環経済化の妨げとなっていると指摘。一方で、フィリピン政府がニッケル鉱石の輸出規制や禁止を検討しており、NPI価格の上昇を招くことで、ステンレススクラップの需要を押し上げる可能性がある。
中国の過剰生産が市場を圧迫
台湾HSKU Raw Material Ltdのベガス・ヤン氏と、シンガポールCronimetのマヒアール・R・パテル氏は、中国の景気刺激策が十分な効果を発揮していないと分析。「中国は引き続き過剰生産を行い、アジア市場にステンレス鋼製品を供給し続けている」と述べた。
同氏らは、2025年について「新トランプ政権の政策次第では、米国市場が先に回復し、それに続いてアジア市場の需要も戻る可能性がある」と予測。「中国のメーカーは、米国以外の新たな市場を模索している」とした。
不動産市場の低迷にもかかわらず、中国のステンレスメーカーは生産調整を行わず、「利益率が低い中で販売量を増やすことで補おうとしている」と指摘。このため、世界市場全体に供給圧力がかかっており、他国のメーカーにも影響を与えている。
アジア市場の動向と今後の展望
- 中国:304グレードのステンレス鋼コイル先物価格は上海市場で約13,000ドル/トンのレンジ内で推移。
- 台湾:2024年第4四半期にはステンレススクラップの需要がNPIの競争圧力により減少。2025年1月のNPI輸入量は前四半期より低下。
- 韓国:2024年第4四半期はステンレススクラップの需要が安定していたが、2025年第1四半期は炉のメンテナンスの影響で大幅に低迷すると予想。
- 日本:国内スクラップ需要は2024年末に安定。輸出量は減少し、国内消費が優先される傾向が継続。
- インド:NPIやフェロニッケル、スラブ、ブルーム、ビレットなどの半製品輸入が増加し、ステンレススクラップ輸入の必要性が年々低下。
また、インドの通貨ルピーを含む複数の通貨が1月半ば以降に下落し、数カ月前に契約されたスクラップの輸入コストが上昇している。
LMEニッケル価格の下落と市場回復の見通し
LMEニッケル価格は過去1カ月で大幅に下落し、ステンレススクラップの買い控えが発生。しかし、コンテナ輸送運賃の低下がスクラップの流通を後押しすると期待されている。
ヤン氏とパテル氏は、「2月後半から3月にかけて市場は回復基調に転じる可能性がある」と予測。「ニッケル価格が底を打ち、今後の回復が期待されるため、需要が第1四半期末までに戻る」との見通しを示した。