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United Steelworkers |
ドナルド・トランプ前大統領は3月12日から、鉄鋼とアルミニウムの輸入に対し25%の新たな関税を導入する。この決定には米国の鉄鋼・アルミ業界から支持の声が上がる一方、サプライチェーンの専門家や経済アナリストからは懸念の声も聞かれる。
米国鉄鋼業界の反応
鉄鋼業界は、新たな関税による市場保護を歓迎している。米国鉄鋼協会(AISI)のケビン・デンプシーCEOは、「米国鉄鋼メーカーを不利にする市場歪曲政策への対応として、強固で刷新された貿易政策が必要だ」と述べた。
米国鉄鋼労働組合(United Steelworkers)のデビッド・マッコール国際会長も関税の導入を評価したが、包括的な措置ではなく、貿易相手国ごとに適用を精査する方針を求めた。「カナダのような信頼できる貿易パートナーと、不公正な競争を仕掛ける国々を区別することが重要だ」と指摘している。
アルミ業界は関税免除を求める
米国のアルミニウム業界は、新関税がサプライチェーンに与える影響を懸念しており、輸入免除を求めている。米アルミニウム協会(Aluminum Association)によると、米国の一次アルミニウムの約3分の2はカナダから輸入されており、スクラップの90%もカナダまたはメキシコから供給されている。
同協会のチャールズ・ジョンソンCEOは、「トランプ大統領が過去に国内アルミ産業の原材料供給を確保し、100億ドルの投資を実現したことを評価する」としながらも、「新関税の影響を精査する必要がある」と述べた。
米アルミ圧延・リサイクル企業ノベリス(Novelis)のデビンダー・アフジャCFOは、「米国内では十分なアルミ供給がない。カナダとの輸送は関税免除が適用されるべきだ」と主張。過去の経験から、関税免除申請は承認される見込みだと自信を示した。
専門家の懸念—価格上昇と貿易戦争の可能性
サプライチェーンの専門家らは、新たな関税が米国製造業や経済全体に悪影響を及ぼす可能性があると警告している。
工業システム技術者協会(IISE)の次期会長であるスンデレシュ・ヘラーグ氏は、「鉄鋼の需要がどこで増加するか、新たな貿易同盟がどのように形成されるかによるが、関税による負の影響が広がる可能性がある」と指摘。
市場分析会社ICAPのジョン・ハミング氏は、「関税により米国の鉄鋼価格は上昇し、国内生産者は競争を受けにくくなる。一方で、中国、EU、カナダなどの鉄鋼輸出国は報復関税を導入し、世界的な貿易戦争へと発展する恐れがある」と述べた。
S&Pグローバル・コモディティ・インサイトのプラッツによると、2月10日時点の米国熱延コイル(HRC)価格は1ショートトン(st)あたり770ドルで、7日から25ドル上昇している。