米国の関税措置が自動車業界に及ぼす影響


部品と完成車のコスト上昇が避けられない状況

米国がカナダとメキシコからの輸入品に25%の関税を課す方針を示したことで、自動車の生産コストが大幅に上昇する可能性が高まっている。ドナルド・トランプ前大統領は2月4日からカナダへの関税を実施し、メキシコへの適用は少なくとも3月まで延期すると発表した。しかし、両国への包括的な関税が発動されれば、報復関税の可能性も高まり、北米の自動車産業に深刻な影響を及ぼす恐れがある。
関税の狙いの一つは製造業の国内回帰だが、その実現には課題が多い。ゼネラルモーターズ(GM)のメアリー・バーラCEOは、関税が適用されれば自社の製造拠点を米国内に移す可能性を示唆した。しかし、移転には莫大なコストと時間がかかる上、多くのメーカーは同一車種の部品を国境をまたいで生産しており、たとえ米国内で最終組立を行ってもカナダやメキシコ製の部品を使用することでコスト増を避けられない。
2024年1~11月の米国の輸入データによると、小型乗用車の41%(285.5万台)がカナダ・メキシコからの輸入であり、貨物輸送用の大型車両も95%(116万台)を同地域に依存している。メキシコからのトラクター輸入は8万3,201台(39%)に上る。
また、自動車部品のサプライチェーンは特に大きな影響を受ける可能性がある。米国は2024年に3.4億個の自動車部品をカナダとメキシコから輸入し、総輸入量の38%を占めた。さらに、米国製の357万基の点火ピストンエンジンの約90%がカナダとメキシコ向けに輸出されており、逆に同地域から226万基(30%)を輸入している。メキシコは米国の鋳鉄製エンジン部品輸入の82%(4万3,582t)を供給しており、自動車用金属製マウント・フィッティングの73%がメキシコからの輸入品である。

サプライチェーンの混乱と業界の今後の展望

カナダ・メキシコ以外の調達先も存在するが、多くの自動車工場は長年にわたるサプライチェーンに依存しており、短期間での代替調達は難しい。2021年の米議会調査局(CRS)の報告によれば、一部の自動車は最終組立前に7~8回国境を越えるケースがある。中国が代替供給源となる可能性もあるが、さらなる貿易摩擦を引き起こす懸念もある。
米国は2022年にカナダ・メキシコから87.1億ドル(約1.3兆円)相当の小型車と、77.5億ドル(約1.2兆円)の自動車部品を輸入しており(2023年米国国際貿易委員会報告)、この依存度の高さを考えると、関税の影響は甚大だ。
米国の2024年12月の自動車販売台数(季節調整済み年率)は1,722万台と、2021年5月以来の最高水準を記録した(米連邦準備制度)。しかし、関税措置が導入されれば、消費者の負担増や供給網の混乱を引き起こし、再び販売減少につながる可能性がある。

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