欧米で熱延コイル価格上昇、貿易規制の強化を懸念

2025年の年初から欧米市場における熱延コイル(HRC)価格が上昇している。欧州および米国のメーカーは、需要の低迷にもかかわらず価格引き上げを図る一方、中国市場では輸出の課題や国内経済の不透明感から価格が下落している。

欧州市場の動向

欧州では、年初からHRC価格が3~5%上昇している。2025年2月7日時点で、西欧地域(工場渡し)は2024年12月27日比4.8%高の1トン当たり595ユーロ、イタリアでは3.1%上昇し582.5ユーロとなった。同期間の輸入材(南欧CIF)は0.9%上昇し、1月31日時点で555ユーロだった。
市場の特徴として、不安定な需要と慎重な購買姿勢が見られる。年初のイタリア市場は休暇後に安定していたが、受注水準の低さが懸念されていた。特に自動車や家電業界の需要が低調で、流通業者やエンドユーザーは大口購入を避けた。しかし、メーカーは利益率の圧迫を受けながらも減産には踏み切らなかった。
1月中旬には、自動車業界向けの年間契約交渉が終了し、市場関係者によると、前年より1トン当たり60~80ユーロの価格引き下げが盛り込まれたという。
1月末には価格上昇の兆しが現れ、北西欧の一部メーカーが1トン当たり620ユーロへの値上げを表明。また、アルセロール・ミッタルは4月から30ユーロの値上げを発表した。一方、EUの貿易規制強化を受け、輸入材の競争力が低下している。
GMK Centerのアナリスト、アンドリー・グルシチェンコ氏は「貿易業者はEUの輸入制限の厳格化がどの程度になるか見極めている段階だ。EUの規制強化により、欧州メーカーはHRC価格を1トン当たり620ユーロまで引き上げられる可能性がある。しかし、トランプ前大統領が鋼材輸入に25%の関税を復活させる意向を示したことで、欧州市場に供給過剰が発生し、価格上昇の効果を相殺する可能性がある」と分析する。

北米市場の動向

北米でもHRC価格は年初から3%上昇し、1トン当たり685ドルとなった。1月は市場の不安定さが続き、価格は640~690ドルの範囲で推移。建設業界や自動車メーカーが先行き不透明感から購入を控えたため、スポット市場の取引量は通常より低かった。
2月に入り、米国政府が中国産鉄鋼製品を対象とする新たな関税を発表すると、ニューコアをはじめとする鉄鋼メーカーが価格を引き上げ、2月第2週には660~710ドルへと上昇。スクラップ価格の上昇やカナダからの供給減も要因となった。
市場関係者は、2025年第2四半期にはさらなる価格上昇が見込まれると予測。貿易規制が国内需要を押し上げる一方、産業生産の安定が価格の支えになる可能性がある。ただし、関税政策と市場の吸収能力のバランスが課題となる。

中国市場の動向

一方、中国ではHRC価格が年初から0.5%下落し、FOB価格は1トン当たり480ドルと、2024年9月以来の最低水準となった。需要の低迷と海外市場の不確実性が影響を及ぼしている。人民元の下落が輸出競争力を高めたものの、アジア市場全体の購買力が弱まったことが価格を押し下げた。
1月中旬には春節前の駆け込み需要や原材料価格の回復により一時的な上昇を見せたが、国内の最終需要が伸び悩み、輸出も外国バイヤーの慎重な姿勢により低調だった。春節前には価格が安定し、休暇期間中は市場が停滞。その後も回復の兆しは鈍く、商社は価格改定を見送る傾向にある。
今後、建設業界を中心に需要回復が期待されるが、世界的な貿易摩擦やアンチダンピング調査のリスクが中国の輸出市場の重しとなる可能性がある。

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