ソフトウェア企業のnTopは、計算流体力学(CFD)シミュレーションを専門とするドイツ企業cloudfluidを買収した。
この買収により、エンジニアが流体挙動を分析するプロセスの簡素化を図る。CFDの課題の一つであるシミュレーション時間の長さは、設計の反復を遅らせる要因となっている。cloudfluidのGPUネイティブソルバーをnTopの計算設計プラットフォームに統合することで、高速かつ効率的なCFD解析が可能となる。
また、nTopは今年6月にロサンゼルスで第2回「Computational Design Summit」を開催する計画も発表した。
nTopのCEO、ブラッド・ローテンバーグ氏は、「最新のコンピューティングプロセッサの能力を最大限に活用し、エンジニアが要件から設計へと素早く移行できるソフトウェアの開発に注力している。これこそが計算設計の力だ」と述べた。
CFDシミュレーションの高速化
CFDを扱った経験があるエンジニアならば、そのシミュレーションがいかに時間のかかるプロセスかを理解しているだろう。
従来のCFDソフトウェアは、CPUベースのソルバーを使用し、計算を逐次処理するため、特に空力解析や熱解析のような複雑なシミュレーションでは、長時間の計算が必要となる。cloudfluidのGPUネイティブソルバーは並列処理を活用し、計算速度を大幅に向上させる。これにより、迅速な設計ワークフローの実現が可能となる。
さらに、cloudfluidは従来のCFDツールが必要とするメッシュ生成の手間を省く。通常、エンジニアは詳細なコンフォーマルメッシュを作成する必要があり、このプロセスは時間を要する上に最適化が困難だった。cloudfluidのソルバーはメッシュレスでの解析を可能にし、設計検証や最適化に集中できる環境を提供する。
cloudfluidの高速CFDソルバーとnTopのインプリシットジオメトリカーネルを統合することで、航空宇宙、防衛、ターボ機械分野のエンジニアは、設計の試験と改良を従来よりも短期間で実施できるようになる。リアルタイムに近い流体解析が可能となることで、異なる設計の検討、推進システムの微調整、熱管理の向上がスムーズに進む。
エンジニアリングにおける機械学習活用の促進
この統合は、機械学習を活用したエンジニアリングアプリケーションの強化にも寄与する。
デジタルツインや設計最適化において、予測モデルの構築には高品質なシミュレーションデータが不可欠だ。しかし、信頼性の高いデータセットの生成には時間とコストがかかるのが一般的だった。cloudfluidの技術により、データセットの作成がより効率的になり、AIを活用した意思決定の普及が進むと期待される。
今回の買収は、nTopがこれまで推進してきた高性能コンピューティング分野での協業の延長線上にある。過去には、nTopはGPUメーカーのNvidiaと提携し、同社のOptiXレイトレーシングやOmniverseをnTopの計算設計ソフトウェアに統合。これにより、エンジニアリングワークフローにおいて、より高速なビジュアライゼーションやシミュレーションが可能となった。
また、Nvidiaのベンチャーキャピタル部門であるNVenturesからの投資を受けたことで、エンジニアリングチームは設計の反復を迅速に行い、製品開発期間の短縮が可能となるとみられる。NvidiaのGPU加速レンダリング技術の統合により、nTop 5のユーザーはメッシュ不要で高精細なレンダリングやデジタルツインとのリアルタイムなインタラクションを実現できる。
エンジニアリングソフトウェアの進化
近年、設計ソフトウェア市場では、エンジニアリングワークフローの向上を目指した技術革新が進んでいる。
昨年、Cognitive Design Systems(CDS)は、「Cognitive Design」というソフトウェアプラットフォームを発表した。従来のCADワークフローでは、複数のツールを切り替えながら作業を行う必要があり、これが設計反復の長期化やエラーの増加につながっていた。Cognitive Designは、設計の最適化と製造可能性の検証を統合し、シミュレーション駆動のパラメトリックデザインやトポロジー最適化を活用することで、リアルタイムな調整を可能にしている。さらに、製造分析ツールを備え、設計段階で潜在的な欠陥を早期に検出することで、スムーズな生産を実現する。
また、エンジニアリングソフトウェア開発企業のHyperganicは、2022年にアルゴリズム設計プラットフォーム「Hyperganic Core 3」をリリースした。同社は780万ドルの資金調達を受け、エンジニアがアルゴリズムモデルを用いて3Dプリンタ向けの部品を設計できる環境を提供している。
特に航空宇宙産業では、数分以内に高度な形状を生成しつつ、性能を最適化することが求められるが、Hyperganicの技術はこのニーズに対応するものとなっている。