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トランプ |
関税政策の不確実性と価格高騰
2024年11月の米大統領選挙でトランプ政権が誕生し、鉄鋼業界では早期の輸入関税強化が予想されていた。実際、政権発足後の大統領令やSNSによる発表が市場を揺るがし、不透明感を高めた。この影響で、ウクライナ侵攻やCOVID-19パンデミック時のように、追加コストや供給不足への懸念が広がり、価格高騰を引き起こしている。
特に、カナダ・メキシコからの輸入鉄鋼に対する関税の導入延期(2025年4月2日まで)や、3月12日から発効したその他の国への25%関税(中国産には追加10%)が、市場に大きな影響を与えた。この関税の変動的な決定により、2025年2月から3月にかけて価格が急騰し、リスクプレミアムが上乗せされる結果となった。
供給・需要の動向と市場の展望
米国鉄鋼市場では、第1四半期の価格は通常、第4四半期より上昇する傾向がある。2025年第1四半期のホットロールコイル(HRC)価格は2024年第4四半期比で16.5%上昇している。しかし、この上昇率は2018年の第1四半期やCOVID-19期の急騰ほどではなく、2024年を通じて市場が弱含みだった影響を受けている。
Fastmarketsによると、現在の価格上昇は4月の関税最終決定後に鈍化する見込みだ。2025年のHRC価格は第2四半期にピークを迎え、その後は下落しつつも2024年第4四半期より高値で推移すると予想されている。
需要面では、建設業・製造業・工業生産がCOVID-19後の低迷から脱却できておらず、高価格を支える要因にはなりにくい。特に、バイデン政権時代のインフレ抑制法(IRA)、インフラ投資雇用法(IIJA)、CHIPS法の停止・撤回が、鉄鋼需要の低迷を加速させると見られている。これらの影響で、市場に供給される鉄鋼が増え、価格を押し下げる可能性がある。
供給面では、米国内生産が輸入減少を補う可能性が高い。現在の米国鉄鋼生産能力は80%未満で推移しており、さらに4.5百万トンの平鋼生産能力が新設または建設中である。2024年の米国鉄鋼総生産量は前年比2.4%減、特に電炉(EAF)生産は4.5%減少した。一方、高炉(BOF)生産は2.9%増加した。2018年のセクション232関税導入時と同様、関税による生産増加効果は限定的となる可能性がある。
米国の関税強化により、他国市場での販売競争が激化し、非関税対象国の鉄鋼価格は下落する可能性がある。欧州やアジアの市場も依然として低迷しており、特に欧州は景気後退のリスクが高まっている。現在、米国HRC価格は北欧のHRC価格より59%高く、その価格差は拡大している。
また、関税発効を前に米国の鉄鋼輸入量は1月から43%増(月次)、前年比では26%増となった。今後の価格動向が不透明なため、買い控えが進む可能性があるが、低価格オファーが市場を動かす可能性もある。
当面、市場は不確実性に支えられた状態が続くが、第2四半期以降、需給の実態に基づいた価格調整が進むと見られる。加えて、米国のインフレ懸念や消費者信頼感の低下が鉄鋼需要と価格に下押し圧力をかける可能性がある。米連邦準備制度(FRB)は短期的な利下げを見送る方針であり、2025年を通じて鉄鋼市場は変動の激しい展開が予想される。
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