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供給逼迫と精錬能力の増加が市場を圧迫
ファストマーケッツによると、2023年8月30日から11月29日にかけて、亜鉛スポットコンセントレートのTC(トリートメントチャージ、CIF中国)は1トン当たりマイナス50ドル~マイナス20ドルの範囲で推移し、2014年の価格算出開始以来最低水準を記録した。
「2023年はコンセントレート市場にとって大きな転換点だった。精製亜鉛価格が1トン2,200ドルまで下落する中、約80万トンの鉱山生産が市場から姿を消した」と市場アナリストのレン氏は指摘する。
市場関係者は、コンゴ民主共和国(DRC)のキプシ鉱山やロシアのオゼルノエ鉱山などの大規模プロジェクトによる生産増加を期待する一方で、それが供給不足をどこまで緩和できるかに疑問を抱いている。
「オゼルノエの鉱石は粒径が非常に細かいため、鉱物の分離が難しく、生産量や品質が予想より大幅に低下する可能性がある。品質が一定基準を下回れば、市場性を失うリスクもある」とレン氏は警告した。
2024年のTC急落の背景:精錬能力の拡大
精錬能力の増加もTCの急落を招いた要因の一つだ。特に中国では近年、精錬能力が急増しており、ホッブス氏の試算によると、過去3年間で50万トンの増加がみられた。
「2035年頃までは精錬能力の不足は考えにくい」とレン氏は述べ、2024年時点で約11%の精錬所がキャッシュロス状態にあると指摘した。
また、レン氏は「2033年までに約400万トンの新規鉱山生産が必要になるが、大部分は既存鉱山の寿命延長によって賄われる可能性が高い」と分析している。
2025年の亜鉛価格は上昇基調に
2025年の亜鉛価格について、レン氏は「徐々に上昇する見込み」と予測する。
「現在の在庫水準は世界消費量の約5日分と見積もっている。これは2025年の亜鉛価格を一定程度支える要因になるだろう」とし、ファンド資金の流入と市場のファンダメンタルズが予想通り推移すれば、2025年の平均価格は1トン当たり3,400ドルに達すると見込まれる。
また、2025年の世界亜鉛消費量は前年比2.5%、2026年は2.6%の増加を予測しており、価格の押し上げ要因になるとした。
ただし、この成長は地域ごとにばらつきがある。ウッド・マッケンジー社によれば、欧州の需要成長率は1%程度にとどまり、主に南欧地域が牽引する形となる。
「ドイツの景気は低迷しているが、欧州全体では製造業の回復が進んでいる」とレン氏は分析する。
一方で、欧州ではボリデンのオッダ精錬所が2025年初頭に稼働開始する予定で、供給過剰が懸念される。
「米国市場は構造的に亜鉛が不足しているため、欧州の余剰分の一部は米国向けに調整される可能性がある」とレン氏は述べた。
地政学的要因と今後の市場動向
IZA(国際亜鉛協会)会議では、地政学的要因が今後の亜鉛需要に影響を及ぼす可能性についても議論された。
「ウクライナ情勢の影響は軽視できない。仮に戦争が終結し、復興が本格化すれば、大量の亜鉛需要が生まれる可能性がある」とクオコ氏は指摘する。
また、電池産業などの新興分野での需要拡大が期待されるものの、依然として亜鉛の主要用途は亜鉛メッキ鋼である。
「鉄鋼業が亜鉛市場を牽引している。エネルギー転換が市場の主導的要因ではない」とレン氏は強調する。
「今後20年間で年間140万トンの亜鉛消費増加が見込まれるが、エネルギー転換による押し上げは限定的であり、市場の基盤はあくまで鉄鋼業にある」とレン氏は結論づけた。